「申酉(さる・とり)騒ぐ」と株式相場格言で言われる酉(とり)年がまもなく終わろうとしている。
株式相場は申(さる)年の2016年、英国民投票によるBrexit決定(6月)や米大統領選のトランプ氏勝利(11月)の一時期、たしかに騒然とした。けれども酉(とり)年2017年はとくに大きな騒ぎはなく、とくに米国株式市場は一貫して上昇し続けた。
むしろ、騒がしかったのは報道や広報の領域だったように感じる。
DeNA「WELQ」騒動、米大統領選をめぐってのフェイクニュースなど、2016年、2017年はメディアと見られているものの信頼性が大きく揺らぐ事象が相次いだ。そして、「自分たちはプラットフォームだから、コンテンツの内容には責任を持ちませんっ」とのスタンスだったFacebookも、コストをかけてコンテンツの内容をチェックし、フェイクニュース対策に乗り出さざるを得なくなった。
本来、コンテンツの内容に責任を持つべき旧来型メディアも動きも相当騒がしかった。一例は朝日新聞。安倍首相と加計学園理事長の個人的な関係に、批判するに値する箇所があったにせよ、それをファクトではなく、印象でもって伝えてしまうのは、オールドメディアの雄(元・雄?)としてどうなのか。
すでに本ブログで6月26日に指摘しているが、朝日新聞は5月17日付朝刊1面トップに「新学部『総理の意向』」(横見出し)、「文科省に記録文書」(縦見出し)とうたった大記事を載せた。
しかし、そのファクトとして1面左肩に掲載された文書の写真はいただけない。
「総理のご意向だと聞いている」という文字部分はよく目に飛び込むようハイライトされている。
半面、「国家戦略特区諮問会議決定という形にすれば、総理が議長なので、総理からの指示に見えるのではないか」の個所は、暗く影にして読めないように細工している。
明らかに印象を操作しようという意図がうかがえる。
上)朝日新聞2017年5月17日付朝刊1面に掲載された写真
下)朝日の写真で黒く加工された部分に書かれている文言
企業広報の領域でも騒々しい事例が目についた。代表例は神戸製鋼所が顧客向け仕様の品質データを書き換えていた問題だ。
三連休の中日、10月8日にアルミ・銅でのデータ改ざんを公表した。だがその後、情報を適切に管理できず、「鉄粉でも」「子会社も半導体材料で」などと独自ネタを次々とメディアに書かれ、報道を後追いする形で11日に会見を開き説明した。
ここまででも相当騒がしいが、さらに騒動は続いた。12日、社長が経産省の廊下で記者を前に、現時点で鉄粉以外は鉄鋼製品での不正はない、と明言したものの、翌13日、日経新聞によって「線材と呼ばれる鉄鋼製品でも品質データを書き換えて出荷していたことが明らかになった」とスクープされた。
〔アルミ・銅〕→〔鉄粉、薄膜材料〕→〔線材〕…と日を変えて何回も謝罪を繰り返す姿は、「この企業は不正の底が見えない」との印象を見事に作り上げてしまった。
神鋼はもともと広報活動に長けた会社だった。振り返って、一体どうすれば彼らはこの大騒動を避けられたのか。
データ改ざんの発端は、2016年6月に公表したグループ会社が製造するばね用ステンレス鋼線のJIS規格違反だった。人事異動にともない新たに着任した管理職が不審に感じ、調査して明らかになった不正を公表したもので、これは見事な対応だったといえる。
同社はその後、同様の規格違反の有無を全社的に調査し、一段落後、調査対象を民-民契約に基づく要求品質・要求仕様を満たしているかにまで拡大した。そこで出てきたのが今回のデータ改ざんである。
法に基づく規格の違反とは違い、今回は民-民の契約違反である。契約違反は原則、顧客と1対1で解決すべき問題であり、公表はそぐわない。そういう面は、たしかにある。ましてや神鋼はB2Bの素材メーカーであり、顧客であるB2C企業の対消費者向け説明と歩調を合わせないわけにはいかない。
神鋼経営陣は8月末に不適合品の存在を知った後、ただちに不適合品の出荷を停止し、9月中旬から顧客への説明を開始した。ここまでの対応はおおむね正しいといえるだろう。
東レが子会社における検査データ改ざんを2016年10月に把握しながら、2017年10月に至るまで顧客に説明しなかった不誠実さに比べれば、むしろ正直な対応である。
結果論になるが、もしこの9月中旬の時点で、神鋼経営陣がアルミ・銅以外の、主力の鉄鋼製品や、グループ会社まで含めた民-民の契約違反案件、データ改ざんのコンプライアンス違反案件の全体像を把握できていれば、10月8日時点で主体的に一括して公表でき、翌日の紙面は非難一色になったかもしれないが、騒動は短期で収束した可能性がある。
その意味で神鋼のケースは、縦割り組織のなかで、社内情報を収集・整理・分析する機能に問題があったために騒ぎが大きくなった事例といえるだろう。
法令違反ではない、契約違反・コンプライアンス違反は「公表するまでもない」と判断したくなる気持ちは分からなくはない。しかし、公表せず、後から内部告発や、説明を受けた顧客からの情報リークによって明らかになった場合のレピュテーションリスクは計り知れない。内部告発や顧客からの情報リークが抑えきれない今、そのリスクまで想定して公表の可否を判断する必要がある。
× × ×
さて、騒々しかった酉(とり)が去り、次に来るのは「戌」(いぬ)。十干は「戊」(つちのえ)である。
「戊戌」(つちのえ・いぬ)は、陰陽五行説によると、二文字とも「陽の土」を示すらしい。同じ性質同士の組み合わせを「比和」と言い、「勢いが増す」意味を持つとされる。
一方、2018年は明治元年(1868年)から満150年に当たる、大きな節目の年。平成最後のフル1年でもある。
戌(いぬ)年の相場格言は、「戌笑う」。
新しい時代の到来に向かって、笑顔で過ごせるような、ポジティブな勢いが増す一年にしたい。
平野