謝罪会見リハーサルの効用

弊社では、不祥事発生時を想定した緊急対応のシミュレーションや緊急会見の模擬演習のトレーニングを実施していますが、実際に会見を予定しているクライアント企業に対して直前にリハーサルを行うことも多くお手伝いしています。多くの場合、本番の会見では、見違えるように改善します。リハーサルの効果は確実にあるといえるでしょう。

一体どこか改善したのか。

第一点は、開示する情報の質と量です。

リハーサルは2日間かけて2回ほど行うこともあります。例えば、情報流出での1回目のリハーサル。紙の配布用の資料がほとんど用意されていなケースでは、記者役(=当社の元記者などのコンサル)から「なぜ資料がないのか」とボコボコに突っ込まれ、結果、会社側は「これでは本番はもたない」と判断、詳細を書いた資料を本番で公表することを決めました。

第二点目は、うっかり失言の解消です。

記者会見前に、会社は何を語るべきか、しっかり方針を立てています。けれども「謝罪会見」という、普段あまりないセッティング上、どうしても緊張は避けられません。

当社のリハーサルは、まぶしい照明、うるさいカメラのシャッター音含め、本番で登壇する方が感じるであろうプレッシャーを、可能な限り再現しています。弊社内のメディアトレーニング専用施設で実施する場合は、会見場も本番同様のセッティングで、厳しい表情の記者役と対峙することになります。したがって、とくに1回目のリハーサルでは会見者は緊張しまくりです。当初作戦通りにはコトが運ばず、本来言うべきことと矛盾する言葉や、記者を挑発する言葉などもついうっかり出てしまいます。

本番でこれが起こってしまうと、大変です。記者に言葉尻をとらえられ、あらぬ方向へと会見が流れ出してしまいます。

先日の模擬会見では、たとえば人物について聞かれた箇所で、「プライバシーの問題があるのでお答えできません」などと軽々に言ってしまった箇所があり、記者役から相当突っ込まれました。

開示を控えられてもやむを得ない、と記者が感じる境界線を適切に捉えられず、非開示としたい範囲を広めに設定していたためです。

しかしリハーサルで失敗した結果、本番では、非開示箇所は最小限に、たとえば「氏名」に限定し、「何十代(年齢)の男性(性別)」と属性をしっかり示しました。このため紛糾は避けられました。

3つ目は、役割分担ならびにチームワークの向上です。

ほとんどの会社は謝罪会見は初めてのケースが多く、例えば登壇者の社長、執行役員、部長の会見者3人の間で、事前に想定される質問を分野に分け、役割分担を決めて臨みます。しかし、実際のリハーサルでは、ほぼすべての質問を社長が引き取って回答する結果に終わることも少なくありません。ひとりで回答し続けるのは大変です。回答者に余裕がなくなれば、失言も出やすくなります。

なぜ計画とは違う進行になってしまうのか。理由は大きく2つ。記者(役)の質問はどうしても最上位者に向かいがちであり、流れに身を任せていると、おのずと最上位の社長が答えてしまうのが1点。また、執行役員、部長いずれも流れを断ち切ってでも自分が積極的に発言する、という勇気が出せないのが第2点です。

しかし、中にはリハーサルを実施に丁寧にレビューすることによって、役員、部長といった登壇者がチームで乗り切る覚悟を固め、会見本番では、自分の担当領域について躊躇なく回答し、見事に社長をサポートできているケースもあります。先日もそのような場面に遭遇しました。時間を作ってリハーサルを実施した経験や我々のアドバイスが奏功した瞬間です。

この手の協力体制は、アタマの理解だけでは実行できません。自分が思うように協力できず、その結果、自分の上司(=社長)がボコボコにされてしまう光景を目の当たりする悔しさを経て初めて、チームワークの必要性が身に染みたのかもしれません。

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カルロス・ゴーン氏の国外逃亡後、1月8日の彼の記者会見をフランスのPR会社が仕切ったことを受け、有事の記者会見のサポートについて一部メディアが論じ始めています。そして危機管理広報について助言するPR会社に対し、ネガティブな形容詞(たとえば「暗躍」「裏稼業」など)をつける例が出始めています。

報道する記者の側が、そのようにネガティブに捉えたくなる心情は理解できますが、それは誤解です、と私は言いたい。

むしろ、安易に非開示に傾きがちな会社に対し、それでは記者が納得しないことを疑似体験させ、しっかりと資料を開示させる。非開示の範囲をギリギリまで狭める。うっかり失言を減らし、本質的な質疑応答を充実させる。コミュニケーションを開き、明朗、透明に努めることが危機収束につながる、との姿勢で、少なくとも私たちはサポートしています。

H.H.

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