コロナ禍でも業績予想を発表できた会社とは? 

要旨:2020年3月期の上場企業の決算発表は、新型コロナ感染症の影響により、決算発表までの所要日数が従来より遅れたり、業績予想の開示が大きく後退することが想定された。私はこのような環境下で業績予想を出せる企業およびその開示内容を調査分析することは、有事の際の投資家向け広報について意義があると考え、約1,000社の決算短信を調査分析した。具体的には決算発表のピーク1)前に決算発表を行い業績予想を開示した468社の情報開示と、同じくピーク前に決算発表を行い業績予想を非開示とした523社の情報開示内容の調査分析である。

毎年秋に、日本広報学会が研究発表全国大会を開催している。今年も「広報実務家は専門職であるべきか ~世界と互角にわたりあうために~」を統一論題として、10月3日から4日にかけて京都産業大学で開催される予定であったが、新型コロナ感染症の影響でオンライン開催となった。私は2014年と2017年に、「大学の危機管理広報」をテーマに、事例研究分析の結果を発表したが、本年は「コロナ下において企業はどのように業績予想を発表したか」とのタイトルで、自由論題の口頭発表を行った。以下はその要旨である。

 その結果、業績予想開示企業においては、感染症で見通しが立てづらい中、企業は予想項目を絞り込んだり、開示形式をレンジにしたり、予想対象時期を柔軟にするなど工夫することで、業績予想を開示(調査対象企業の47%)していることがわかった。一方、業績予想非開示企業については、開示しない理由を単に「新型コロナウイルス感染症の影響」と記載するだけでなく、投資家に向けて積極的に情報開示している事例が少なからず見られた。

私は、「業績予想を公表した会社が47%」という数字に加えて、「非公表の会社の中でも投資家の関心の高いテーマについて積極的な情報開示が見られたこと」「未来やメッセージが語られていたこと」は、上場企業が「投資家との建設的な対話を促進しようとしている」ことの表れだと確信する。

私が企業のIR支援をするようになって30年。長く上場企業の情報開示を見てきたが、私は当初、「上場企業の大半は業績予想を開示しないのではないか」と考えていたので、今回の「業績予想を公表した会社が47%」という数字には正直驚いた。

最後に今回の調査研究において、もうひとつ驚きというか喜びがあった。

それは、業績予想を公表した会社の中に、規制緩和に挑戦するベンチャー企業なども多く、それら企業がこのコロナ禍においても投資家に向けて「業績予想」という有益な情報を出そうとしている姿勢を感じたことである。業種的には、不況に強い医療や食品、IT(中でもフィンテック)関連企業が多かった。アウトソーシング時代を反映してか、BPO(人事・総務など間接業務のアウトソーシングビジネス)関連のベンチャー企業も多かった。

ベンチャー企業が育ちにくいと言われる日本であるが、私は期待できると思い嬉しくなった。

江良 嘉則

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。