コロナ自粛、行動変容に繋げるメッセージ

2回目の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言発出から1週間になります。「午後8時以降の不要不急の外出自粛の徹底」「経済は止めてはならない」「オリンピックは予定通りの開催を目指す」という菅首相のメッセージを受け、会食や3密をさけるなど可能な対策をとりつつも出口の見えない不安な日々が続いていますね。

思い起こせば2020年4月、1回目の緊急事態宣言前日の東京の新規感染者は85人。当時の安倍首相は、全国の小中校に臨時休校を要請した上で、「警戒宣言対象地域では、オフィスの仕事は原則として自宅。出勤が必要な場合でも、最低7割は減らす」ことを求めました。一方、2回目の宣言前日の東京の新規感染者は2447人、東京だけでも前回の30倍近くになります。にもかかわらず、菅首相は「私たちはこの1年間の経験で多くのことを学んできました。大事なのは、会話をするときは必ずマスクをお願いする。さらに外食を控えて、テレワーク7割、夜8時以降の不要不急の外出の自粛、特にこの3点を徹底していただければ、必ず感染を抑えることはできると考えております(抜粋)」と語っています。私たちが学んだことは、コロナは長引く、コロナ前には戻れない、特効薬も見つからない、重症になっても医療にかかれない可能性もある…であり、首相の言葉とは大きな乖離があります。

奥原剛氏(東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学)が中心になって行った興味深い調査があります。2020年5月9~11日に、18~69歳の約2000人を対象とするインターネット調査を実施。外出自粛を呼びかけるメッセージを無作為に示して、読む前と後に、外出を自粛しようという意思がどの程度変化したかを答えてもらっています。

5種類のメッセージは、都道府県の知事、感染症対策の専門家、治療現場で働く医師、罹患した人、流行が急拡大している地域の住民が発したもので、(1)人と会う、外食をするなどの予定をキャンセルや延期しようと思うか、(2)店での買い物の時間を減らそうと思うか、(3)人混みを避けようと思うか、という3つの質問に対し、「絶対にしない」から「絶対にする」までの6段階で回答してもらっています。その結果、医師のメッセージを読んだ時に、外出自粛の意思が最も大きく変化することが分かったそうです。2位は患者のメッセージ、3位は専門家のメッセージ、知事と住民のメッセージは最下位です。調査に用いた医師のメッセージは「私の病院では、新型コロナウイルスの患者さんでベッドも集中治療室も埋まっていて、患者さんを新規に受け入れることができません。同僚の一人でも感染したら、何人もの医師と看護師が自宅待機となり治療を続けることができなくなります。もし皆さんの誰かが感染して重症化しても、治療できなくなるのです。私たちは踏みとどまって病院にいて治療を続けます。ですから、皆さんは家にいてください。皆さんが務めを果たすことで、私たちも務めを果たすことができます(抜粋)」。

行政は市民の命をあずかる立場として、科学的なデータをもとにした行動指針になる数値、段階ごとの要請内容などのロードマップ、先を見越した対策をメッセージするべきであり、楽観的な見込を排除した緊迫感こそが市民の行動変容につながるのではないかと考えます。一方、医療現場からは治療の実情など感情に訴えるメッセージをもっと出してほしいと感じます。逼迫した現場から医師が出すメッセージのほうが、現場の様子が情景として思い浮かびやすく、取るべき行動が具体的に心に伝わってくるように感じます。ニューヨーククオモ州知事の激しく篤いメッセージや医療崩壊を防いだ施策など、多くのことを考えさせられます。

YM

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