岸田政権の旧統一教会対応に見る危機管理広報のレッスン

レピュテーション(評判)リスクとはどのようなものであるか。企業にとってはなかなか見えにくかったりしますが、政治の世界ではわかりやすい実例があります。各メディアが月1回実施している世論調査です。

メディア各社の世論調査を見ていると、岸田内閣支持率は明らかに低下傾向にあります。媒体と調査時期によって差がありますが、毎日新聞は36%(8月22日付。7月は52%)、朝日新聞は47%(8月29日付。7月は57%)、産経・FNNも54%(8月23日付。7月は62%)といずれも下がっています。

要因は明らかに、旧統一教会との関係についてのクライシス・コミュニケーションの躓きでしょう。

岸田首相は、旧統一教会との関係性は「党ではなく、議員個人の問題」と捉え、「それぞれ丁寧に説明していくことが大事」(7月31日)、「関係をそれぞれ点検し、結果を明らかにしてもらう。そのうえで適正な形に見直す」(8月6日)などと語っていました。

8月10日の内閣改造前には、少し踏み込み、「関係を自ら点検し、厳正に見直すことが新閣僚、党役員においても前提となる」(8月9日)と発言しています。言葉遣いを「適正な形に」から「厳正に」へと変更し、厳しく対処する印象を作ろうと試みましたが、基本は議員個人の「自己申告、自己反省」(8月28日BS朝日『日曜スクープ』での久江雅彦・共同通信社編集委員兼論説委員)の方針であり、党として問題解決のリーダーシップは取っていません。

しかし、岸田首相が夏休みを取っている最中(8月16日~21日)、萩生田政調会長と生稲晃子議員が7月の参議院選挙の前に、旧統一教会施設を訪れていたことが報道されました(初報は8月16日のデイリー新潮)。岸田首相は、毎日新聞世論調査の内容(内閣支持率36%、不支持率54%)を報道前日に知ったとみられ、22日に「こうした団体との関係については断っていただくよう徹底していくことは重要だ」と“関係断絶”を宣言するに至りました。

そして8月26日、茂木党幹事長が自民党所属の衆参計371人に対し、旧統一教会との関係性を調べてアンケート調査に応えるよう通知を発出しました(締め切り9月2日)。

この一連の自民党の危機対応初動失敗→レピュテーション低下(支持率低下)から、企業が汲み取るべき教訓は何でしょうか。

大きく3つあると思います。

第一の教訓は、最悪の事態を想定すべき、ということです。

旧統一教会は①宗教団体、②国際勝共連合、③霊感商法──など幾重もの衣をまとっています。信教の自由や、政治的信条の側面を重視してしまうと、「何が問題か、僕はよくわからない」(福田達夫総務会長〔7月29日会見当時〕)みたいな事態軽視発言(=失言)が出てしまいがちです。

2009年5月以降表面化した“印鑑販売会社「新世」の霊感商法事件”では、同年11月の東京地裁判決で裁判長が「世界基督教統一神霊協会の信者を増やすことを目的として違法な印鑑販売を行った」「相当高度な組織性が認められる継続的犯行の一環」などと指摘しているわけですから(カッコ内は朝日新聞2009年11月11日朝刊38頁)、10数年が経過し、組織名が変わっているにせよ、霊感商法組織と自党や政治の結びつきを、一般生活者・有権者がどう思うのか、最も深刻な事態を想像すべきです。

第二は、「個人の問題」に矮小化しないこと。「組織に問題があるかもしれない」と大きく構えて対応すべきであること。

茂木幹事長は7月26日の段階で「自民党として組織的関係がないことを確認している」と会見で発言し、8月26日の自民党所属議員向け通知では「党として組織的な関係は一切ないことはすでに確認済みではありますが」と記しています。「党として組織的な関係ナシ」がまるで既定の事実であるかのようです。

企業不祥事において、それが個人に起因したものか、組織に起因したものかは常に議論の焦点になりますが、一定数以上の複数の人間が関与していたり(量的関与)、一定の役職以上の人間が関与していれば(質的関与)、メディアや生活者は「これは組織的だよね」と判断します。当該企業としても、組織としての非・瑕疵・不備を認めたうえで、再発防止策を提示する必要に迫られます。

第三は、罪科のありか(accusable)と対応(responsible)を混同しないことです。これら「2つの責任」を混同すると、初動が遅れてしまいがちです。

責められるべき人(accusable)も、問題解決に向けて対応すべき人(responsible)も、日本語ではどちらも「責任者」と呼ばれます。「責任者は誰だ。責任者出てこい!」などと日本語でいうとき、そこには多分に「告発されるべき奴はだれだ。非難されるべき奴は顔を出せ」の意味が込められています。

しかし本来、accusable と responsible は異なる概念であり、しかも時間差があります。accusable(罪科のありか)を特定するには調査が必要であり、場合によっては裁判が必要になります。時間がかかります。しかし、responsible(対応)は問題解決に向けて可及的速やかに行動すべきです。

今回自民党は初動で、「党組織として責められるべきではない(一部派閥が責められるべきだ)」と考えたかったがために、「党組織としてレスポンスしなくてよい」と考えてしまい、個人で申告、個人で反省の方針を取ってしまったのではないでしょうか。罪科のありかとレスポンスの違いを峻別できていれば、8月26日の幹事長によるアンケート調査は、1カ月早く、7月26日の段階で発出できていたのではないか、と想像します。

今回の旧統一教会問題は、企業の危機管理広報に、貴重な教訓を残してくれています。

H.H.

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。